朝のサバ理論
僕は小さい頃から魚が苦手でした。
しかもアジやサバなどの青魚は特に苦手でした。
あの生臭いにおい。
魚屋さんの前を通るときはいつも息を止めていました。
でも、大人になるにつれ少しずつ、少しずつ変わっていきました。
ビールや日本酒があれば、なんとかサバも食べられるようになりました。はじめは夜しか食べられなかったのですが、お腹がぺこぺこだったら、お酒がなくてもお昼にサバを食べられるようになりました。
そして、ついに朝の食卓にサバが登場するときがやってきました。
朝は一日でいちばん舌が敏感なとき。
お酒や空腹感で味覚をごまかすことはできず、ほぼ素っ裸の状態で真正面からサバと向き合います。
僕はサバの中でいちばん攻撃力が低いと思われる背中あたりの身をほじくって、おそるおそる口に運びました。
すると、魚の風味がダイレクトに味覚細胞を刺激して、最短ルートで脳にシグナルを送りました。
次の瞬間、僕の脳は
「おいしい」
と判断しました。
ほどよい塩分と脂分が絶妙なバランスで口の中を上品な雰囲気にしてくれます。
あれだけ苦手だったサバを、こんなにおいしいと思えるなんて。
技術の進歩でサバがおいしくなったのでしょうか。
いえ、サバは今も昔もサバのままです。
変わったのは僕です。
大人になって、自分で料理するようになったり、健康に気をつかって薄味を心がけたりするうちに、自然と魚の上品な味を好む体質に変わっていったのだと思います。
もしかしたら自分がまだ気付いてないだけで、サバ以外にもおいしいものが世界にはまだたくさんあるのでは。
食べ物だけでなく、 苦手な人や嫌な仕事とかも、もしかしたら自分が変わればそれらも好きになれるのではないか。そう思うようになりました。
自分が変わることで世界が美しく変わる。
これを僕は「朝のサバ理論」と呼んでいます。